まほろば通信Gallery
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数日後、久礼波の帰りを待ちわびる沙那女のもとに届いたのは思いもしなかった驚愕の知らせだった。
久礼波が死んだ、という。
葬礼の場で大碓王子に不敬を働いた若者がいたというのだ。
些細なことだったに違いない。それがたまたま大碓の怒りをかったのだ。
剣を抜いて若者に斬り掛かろうとする大碓を止めたのは小碓王子(おうすのみこ)=オグナだった。
オグナのその行為が余計に大碓を激昂させた。大碓はオグナに斬り掛かった。
葬礼の場でオグナは剣を身につけていなかった。
瞬間、オグナの前に飛び出したのは久礼波。彼は大碓の剣を受けて倒れた。
死に瀕して、久礼波はオグナの腕の中で静かに微笑んで息絶えたという。
沙那女の衝撃は痛々しいものだった。
ふらつく彼女を支えようとした弟彦はやんわりと彼女に押し戻された。
「ひとりにしておいて…」
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---こんなに待ったのに…。私には待つことだけしか出来なかったのに…。
夜の森を彷徨い、悲しみに暮れる沙那女の前に久礼波が立った。
--- …夢にも来てくれなかったのに…遅いのよ…。
けれども約束は守ってくれたのね。魂だけでも来てくれた…。
久礼波は沙那女に手を差し伸べた。彼女はその手を取った。
不安を押さえることが出来ずに弟彦は森を捜しまわっていた。
いつしか夜が明けていた。
そうして弟彦は森の奥深く、こんこんと湧き出る泉の中に浮かんでいる沙那女の姿を見つけたのだった。
沙那女の死に顔は静かに穏やかな微笑をたたえていた。
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旅立つ弟彦に麻多烏(またお)が問いかける。
「帰って…くるよね?」
「俺を待つな。約束など出来ない」
麻多烏の眼に涙が溢れる。
彼女のことは清彦と父にまかせておけばいい、と思った。
これからの途は自分とオグナだけが歩む途だ。
その道程の果てになにがあろうとも後悔はしないと思う。
なぜならばそれが自分が選んだことだからだ。
森の奥深く、沙那女が逝った泉に花を手向けて、弟彦は自らの少年期に別れを告げた。
思いにまかせてどうにも中途半端な文章を書いてしまいました。
小説には書き込み不足で、ショートストーリーというには長過ぎますね。
このエピソードは本当は漫画で描きたかったものなのです。
自分以外の誰か(オグナ)のために生きる人生、というのを選択した弟彦ですが、
そこへ到るまでにはそれなりの紆余曲折があったんですね。
その少年時代をずっと描きたいと思っていました。
今回こういう形にしろ、まがりなりにもまとまって、ちょっとほっとしています。
そのうち、いずれ気力体力が充実したら、もっときちんとした形で書き直すかもしれません。
このエピソードだけにかかりきりだった1週間。疲れましたが、安堵もしました。
弟彦のこういう人生ってどんなふうに思っていただけるのかなあ、と関心がありますね。
絵の方ですが…どうにも弟彦が絡むと妙にアダルトな雰囲気になってしまうのが不思議です。
こらこら、裸で表に出るんじゃない、と思わず言いそうになるシーンもあったり…(笑)
でも10代の微妙な年齢の体型って描きにくいです。筋肉質だけど、スリムなの。
本当ならば14才の弟彦も描きたかったのですが、力尽きてしまいました(汗)がっくり。
いずれこれも機会があれば描きたいものです。
追記:この時代、紙と筆と文字の使用はまだあまり一般的ではなかったと思われますが、
久礼波は渡来人の技術者ということで、故国からそれらの品を持参しています。
拡げているのは図面だったりして…。